【編集長コラム】「CDが売れない、楽譜が売れない」と嘆いても売れるわけじゃない。売り手同士の協力が求められる時代をサバイブする





 

こんにちは!

Wind Band Press編集長の梅本です。

この編集長コラムでは、最近気になることや、経験上何か役立ちそうなことなんかを、ちょこちょこと書いていきます。

今日はレーベル・出版社といった商品生産者と卸業者や小売店さん向けの内容ですが、消費者の皆さん(僕も生産者であり小売店であり消費者でもありますが)にも関係してくる部分もあると思うので、よろしければお読み下さい。

 


日本でクラシックのCDってどのくらい売れたら「ヒット」だと思いますか?ロックやポップスだと一昔前は「ミリオンヒット」なんて言われて100万枚を目指す感じがありましたね。最近ではそれも難しいようですけれど。

クラシックのCDは、レーベルや商品によって色々あると思いますが(例えばコンクールものはちょっと他と扱いが違うと思う)、吹奏楽や管楽器・打楽器のCDであれば初回プレスはだいたい500~1,000枚がいいところじゃないでしょうか。それを1年間で売り切れば御の字。

だいたい5,000枚も売れたら「うおー!マジか!」って感じで「1万枚」売れたら大ヒットじゃないでしょうかね。ボーナス出るくらいの勢い。

今はCD売れなくなっているので、「1万枚」はほぼ無理かもしれないです。

数千枚なら地元のライブハウスでやってるインディーズバンドがライブ会場で手売りしたほうが売れますね。元々がそんなもんなので、今はクラシックのCDはなおさら厳しいですし、厳しいってことは「売れ筋」以外のCDはそんなに発売されないってことでもあります。

これをレーベル側が「みんながCD買わないからだ」「You Tubeのせいだ」とか言っている間はダメでしょうね。

「売れないなー」「売れてくれないかなー」って僕も思いますけど、それを言ったところで売れるわけじゃない。じゃあどうすればいいのかな、という話をします。

「協業」という言葉があります。意味は大きく2つあるのですが、そのうちの1つが、主に現代のビジネスシーンで使われるもので、「企業同士が提携してビジネスを行う」という意味です。

最近だとドラッグストア(小売店)のマツモトキヨシがメーカーと協業して売上を伸ばしているそうです。詳細はこちら。小売店視点だと「○○を買うならマツキヨ」というイメージを消費者に認識してもらうことに成功したということ、メーカー視点だとマツキヨが持っている膨大な顧客データベースから次の商品開発や既存の商品の販売戦略を練るための情報を得られた、ということですかね。

昔だったら小売店にレーベルや出版社(以下まとめてメーカーと呼びます)の営業担当者が足を運んで、商品の売り込みや現場からの声を拾ったりしていましたが、いつの間にか「自社サイトで売ろう」「小売店はもうダメだ」という雰囲気になっている感じがします。いま小売店に足を運んでいるメーカーさんってだいぶ減ってるんじゃないでしょうか。メールとか電話とかはするかもしれないけど。

「小売店はもうダメだから自社サイトで売ろう」の結果売れているならいいんですが、見た感じ売れてなさそうですよね。他社商品を自社サイトにどんどん投入してるのも売上補填でしょうし。別にそれが悪いわけではないですよ。生きていかなきゃいけないですし。ただ、新しいタイトルがどんどん出てくるわけでもないので売上もジリジリ下がって新規企画の予算が確保出来ないとか、そういう側面はあるんじゃないかな、という気はしています。

メーカーも卸業者も小売店も消費者も、そんな時代を生きているわけですね。

上述のマツモトキヨシの話から学ぶべきことは、別にマツモトキヨシのやり方を真似しようとかじゃなくて、メーカーと小売店(またはメーカーと卸業者と小売店)がお互いのデータや販促リソースを活用して全体の売上を上げていく、より多くのお客様を作る、という点です。

メーカーの自社サイトのお客様は、基本的にはそのメーカーのファンが多いかと思います。特に何も文句は言わないでしょう。サービスがひどかったらその時は文句を言うでしょうが、商品に対しての文句はあまり出てこないかと思います。潜在的なニーズを吸い上げるのが難しい、というのが自社サイトに注力した場合の難点です。

一方小売店は、メーカーが直営ストアを展開し始めると「客を取る気か」って思うでしょうし、メーカーからの取引条件が厳しくなったり、プロモーション素材の提供も少なかったり、となるとそのメーカーの商品を積極的に売る必要がなくなります。どちらかというと感じが悪いので、お客様のために用意はするけど常備はしない、売れても売れなくてもどっちでもいいわい、そういうお店が増えているかもしれません。悪循環ですね。

互いを敵視していたら街も荒廃するわけだし

CDや楽譜の小売の現場といっても色々あるでしょう。CDショップ(これは小さいお店はもうほとんど潰れてますが)、楽譜専門店、楽器屋さんといった実店舗、そしてオンラインです。オンラインショップは実店舗がオンラインショップの運営も兼ねている場合も多いですし、オンラインだけでやっている(例えばWBP Plus!のような)小売店もあります。

それぞれの現場にはそれぞれの現場にしかないお客様の情報が集まっています。メーカーはメーカーで独自の情報を持っているでしょう。特に商品に関する情報はメーカーでしか知り得ない情報もあります。

小売店の現場で何が起きていて小売店が何を必要としているか。メーカー側で何が起きていてメーカーが何を必要としているか。それを補完し合うのが本来のメーカーと小売店との関係なのかもしれません。

メーカーは小売店から現場のデータを収集して商品開発や販促戦略に活かさないといけません。それらの小売店が持つ生々しいデータはメーカーの「自社サイト」には落ちていません。断言しますが、そこにはありません。

小売店はただCDや楽譜を売るだけではなく、お客様の悩みや不満を解決する場所にならないといけません。ただちょろっと商品が置いてあるだけならメーカー自社サイトが行う大幅な割引に勝てないからです。卸価格とほぼ同額でBtoCをやってしまうメーカーサイトもあるので小売店側にも不満はあるでしょうが、それはメーカーサイトの強みなので、小売店は価格ではないところでお客様に役立つ存在にならないとサバイブが難しいわけです。そういう意味では楽器屋さんは強いですよね。それでもやっぱりお客様の悩みや不満を解決するためには、より深い商品知識が不可欠です。お店作りのために必要な情報や素材をメーカーから提供してもらわないといけません。

どちらから声をかけても良いですが、売れない時代を生き抜くために協業は必要です。時代を「売れる時代」に逆転させるのは難しくても、何か新しい商品開発や現場での活用のアイディアが出てくるかもしれません(出さないといけないのですが)。

実店舗の場合はそんな感じですが、オンラインショップの場合もほぼ同様ですね。基本的にはお客様のためにやっているわけなので、オンラインでしか買えない、買わない、そういう方のためにどういった情報を提供できるか、ということを考えるわけですが、例えば「宣材が足りない」っていうのはあるかもしれません。

オンラインで買う人は実店舗で買う人に比べて情報量が多くないといけない(判断出来ない)のですが現実は情報が少ないです。ジャケット画像だけじゃなくてバックインレイ画像も欲しいとか、試聴用の素材がないとか。特にECモールに出店する場合はYoutube動画の埋め込みや外部リンクを貼ることすら禁止されている場合があるので、独自に動画データを用意してもらう必要があったりします。楽譜もCDもそうですけどYoutubeで曲を聴いて購入を決める時代ですからね。メーカーが試聴素材も用意できないのは時代遅れですね。これはオンラインショップを自社でやっているメーカーにはわからない問題かも知れません。自分の会社に宣材が山程ありますからね。でも他の小売店がやっているオンラインショップにはそれがないので、何が必要かということがよりシャープに分かるかと思います。こういった現場のデータもメーカーにとっては大事です。ネットだから出来る情報の伝え方がある、じゃあそれは何か。どんなデータを用意したら良いのか。それを考えるきっかけになります。

卸業者さんについては、昔ほど存在意義がないように感じますが、それはなぜかというと旧態依然としているからでしょうね。商品だけじゃなくて商品を売るための情報のハブにならないといけません。高額な保証金で契約させて、高い掛け率で、送料も負担させて、大量に仕入れろと圧力をかける、いざ発注したら「在庫がないから数ヶ月待て」と言う。そんな卸業者は今どき必要ないですよね。売れる時代じゃないんですから。メーカーと直接やり取りが出来ない小規模事業者のために、彼らの代わりにメーカーから情報や宣材を引き出さないといけません。今最も小売店に足を運ばないといけないのは卸業者さんかもしれませんね。

メーカー、卸業者、小売店、どの立場にしても、消費者の現場で何が起きていて、消費者に一番近いところにいる小売店は何を必要としているのか、メーカーは何を必要とすべきか、ということは共有した方がいいでしょう。

そして何よりも、本当に大切なことは何か、何のために誰のために商品を生産するのか販売するのか、これを考えていけば、おのずと「協業が必要な時代だな」ということがわかってくるかと思います。人の役に立ちたいという思いはおそらく一緒ですからね。

メーカーと小売店と卸業者、誰が偉いとかそういう話ではないんですよね。そんなことは消費者にとってはどうだっていいんです。どんどんお互いに声をかけていって欲しいと思います。(ちなみに僕は今アメリカのマークカスタムと協力して色々準備中です)

もちろん僕に声をかけていただいても構いません。オンラインショップ専業ですけど。

最後にちょっとだけ冒頭の話、「1万枚売れたら大ヒット」の話に戻ります。

初回プレス数百枚で終わってしまうCDと1万枚売れたCDの差は何だったんでしょうか。演奏でしょうか。録音でしょうか。マスタリングでしょうか。知名度でしょうか。おそらくどれも正解ですがどれも間違いです。

差がつくのは「企画」です。商品を制作する前にもう決まっています。

昔はカンでいけたかもしれませんが今の時代はデータがないと1万枚売る企画が出来ない。1万枚売れるCDがあるということは、少なくとも1万人が必要とする企画がどこかに眠っているということです。昔1万枚売ったCDを今の時代に出しても1万枚売れないかもしれませんが、決して今の時代でも1万枚売るのは無理なことではありません。キーワードは「協業」です。

今日はこのへんで。


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